東野圭吾著「手紙」を読んで
東野圭吾著作の「手紙」を文春文庫の本で読みました。文庫本になってから話題になっていたので、何となく手に取ってしまいました。しかし、読み始めたら止まらなくなり、あっと言う間に読み上げてしまいました。後で考えると、辞書を引くような漢字もほとんどなく、とても読みやすい本でした。
東野圭吾の作品は、基本的には推理・探偵小説だと思っていました。というのは、彼が江戸川乱歩賞からスタートしたこと、そして私が最初に読んだのが「悪意」という推理小説だったことからです。でも、テレビで見た映画「秘密」はそれとは少し違っていました。
今回読んだ「手紙」は確かに強盗殺人事件を扱っていますが、その本質は人情話ではないでしょうか。もちろん、犯罪加害者の家族は差別されるべきという非人情の側面が多く描かれていますが、それは人情の裏返しではないでしょうか。非人情があって人情がある訳です。それも5割を超えた人情は人情ではないでしょう。1割しかないから、あるいは1パーセントしかないから泣かせる人情話になるはずだと思います。
そう考えれば彼が今年直木賞を「容疑者Xの献身」で受賞したことが理解できます。実は今年の直木賞受賞前に5回も候補作になりながら受賞を逃し、6回目でやっと受賞できたそうです。「秘密」が最初の候補作であり、本件記事の「手紙」が4番目の候補作です。「手紙」を読みながら、ずっと浅田次郎の作品を思い浮かべていましたが、読みやすさや人情等は共通するものがあると思います。
先程ウィキペディア・フリー百科事典で、東野圭吾と浅田次郎を調べました。歳は浅田の方が7歳上ですが、作家としての本格的デビューは東野の方が10年位早いようです。そして、皮肉にも直木賞を受賞したのは、浅田の方が9年早いという関係にあります。二人とも多作で、映画化されてヒットもしております。映画化された浅田の代表作は「鉄道員(ぽっぽや)」で、現在映画「地下鉄に乗って」が公開されております。くしくも明日11月3日から映画「手紙」が公開されます。これからも二人が日本のエンターテイメント界を盛り上げてくれることを望みます。
- 人情と 非人情の 間に涙
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手紙
著者:東野 圭吾 |
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容疑者Xの献身
著者:東野 圭吾 |
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悪意
著者:東野 圭吾 |
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秘密
販売元:東宝 |
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鉄道員(ぽっぽや)
著者:浅田 次郎 |
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鉄道員(ぽっぽや)
販売元:東映 |
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地下鉄(メトロ)に乗って
著者:浅田 次郎 |
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コメント
福田浩司賞味大臣さん
コメントありがとうございました。
確かに秋葉原事件のあった時に、この本を読んでいると、ずいぶん考えさせられるでしょうね。最近の社会風潮は「力を力で制す」という感じですが、本来の人間社会は「力を愛情・絆で制す」ものなのではないでしょうか。
投稿: Kirk | 2008年6月15日 (日) 午前 06時33分
一週間かけて拝読しました。読んでる最中に秋葉原で大きな事件あっただけにより重く感じられました。理不尽と思いましたがこれが現実でイマジンの歌の方が理想なんだと言われたら実際の大人の社会はそうかもしれません。差別は寛容の度合や民意の高い低いのもよりますが。ビートルズはそういえば若いうちに成功していますからね
投稿: 福田浩司賞味大臣 | 2008年6月14日 (土) 午後 09時13分