藤原正彦著「国家の堕落」を読んで
あの「国家の品格」の著者藤原正彦氏が、明日が書店での発売日である「文藝春秋」2007年1月号(新年特別号)の巻頭に特別寄稿を寄せております。その題目は、「驕れる経済人よ、猛省せよ 国家の堕落 改革の名のもとに国柄を壊し、ついには教育まで」としてあります。
(注)ところで文藝春秋を年間定期購読していると、発売日の数日前に自宅に配送されますし(今回は5日前の水曜日に配送されました)、表紙の絵を描いている平松礼二氏の絵を使ったカレンダーもいただけます。
藤原氏は、この論文を次のように始めております。
近代になって、市場原理主義ほどこの日本を傷つけたものは多くはない。戦前の帝国主義、戦後のGHQと日教組、そして冷戦後の市場原理主義と並べられるほどである。
日本を傷つけたこれらイデオロギーには二つの共通な特徴がある。一つは、それらイデオロギーが日本を傷つける過程で、一部の狂信的な人々に主唱され利用されただけではなく、大多数の国民にも共有されたということである。そして二つ目は、それらイデオロギーが我が国の古くからの国柄を忘れたものであったということである。
藤原氏は、国家に対する何の哲学もないまま、市場原理主義という経済の視点で日本改造を行ったため、日本の国柄が破壊され、
- 企業のリストラにより500万ともいわれるニート、フリーターが出現し
- 経済上の格差、生命の格差そして教育の格差を広げ
- 激しい競争社会というより生き馬の目を抜くような社会を現出させた
などと結論付けております。また、市場原理主義を推し進めていけば、日本農業は壊滅に瀕し、現在でも40%に過ぎない食糧自給率はさらに格段に低くなると予測しています。
確かに我々も日々営利企業で働いていると、金儲けが目的ですから、どうしても金儲け主義になってしまいます。その結果、
- 競争相手を出し抜く
- 弱い相手は徹底的に叩く
- 負けた者には存在価値がない
- 必要以上に難解で、細かい字の契約書を作る
- 分からなければいい(通常犯罪までは参りませんが、行き過ぎると談合や賄賂に至ります)
などの発想が、とてもた易く出て来てしまいます。これは、言い換えれば、「自分さえ良ければいい」、「相手などどうなっても構わない」という、藤原氏が著書「国家の品格」で述べている、日本に古来から備わっているという「弱いものいじめをしない」、「惻隠の情をもつ」などという武士道の精神に、全く反する思考が出て参ります。
これは、日本の現代社会の病理である、自殺といじめにつながっているのではないでしょうか。
- 存在は善である
- 生命は尊重すべきものである
- 弱いものいじめをしない
- すべての生き物と共生する
などの、いわゆる自明の理、公理的なものをしっかり教育しないとこのようなことになるのではないでしょうか。藤原氏は、市場原理主義による教育改革には最も警鐘を鳴らしており、小学校でパソコンを教え、英語を教えることで、基礎科学、文学、芸術などは切り捨てられると危惧しています。「歴史的視点に立つと、数学とか理論物理学などの基礎科学の弱い国が、長期間繁栄したことは近代になって一つもない」のだそうです。
私は藤原氏の意見には共感できる部分が多かったのですが、さて皆さんはいかがでしょうか。とにかく国家的な議論を行うことが必要だと思います。
- 国柄を 偲び草の根 人づくり
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藤原正彦の人生案内
著者:藤原 正彦 |
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コメント
コメントとトラックバック、ありがとうございました。
私のところは昨日は東京都知事選挙の投票をいたしました。結果にかかわらず、東京都では福祉軽視・切捨ての流れがやや強まっていた中で、石原さんも選挙戦の中で福祉重視の姿勢を打ち出さざる得なくなったのは、いい変化だと私は思います。
藤原正彦さんは、「人生の目的は金儲けではないだろう」と言っているように思います。その代わりに人生を導くものは、日本では武士道ではないかとのことです。人生の目的は、他人の笑顔、ありがとうの感謝の言葉、自分の達成感などではないかと思います。
しかし、経済の場では資本主義、市場原理主義(いわゆる金儲け主義)より優れた仕組みがないことが歴史的に証明されてしまいました。それ故に、社会ではいわゆる武士道と金儲け主義の摩擦が常に起きているのだと考えます。
トラックバックして下さった記事「努力に報いるのは金じゃない」、そして関連のトラックバックとコメントを拝読いたしました。共感できる部分が多いと思います。
金儲けの裏にはいろいろ見えない仕組みがあるものです。公正競争の概念がないときは、トラストによる価格の吊り上げ、競争相手のビジネスの妨害など日常茶飯事だったようです。これで大儲けした代表はロックフェラー一族といわれています。ビル・ゲイツ氏のマイクロソフトもこのところずっと不公正競争の疑いをかけられています。
最近の証券取引では、インサイダーに関わる話が焦点になります。一部の人達しか知らない情報にて取引きを行い巨額の利益を得る訳です。ウォーレン・バフェット氏にもその疑いがなしではないと思います。とにかくお金のあるところにはお金儲けの情報が集まるのです。
しかしながら、ロックフェラー一族もビル・ゲイツ氏もウォーレン・バフェット氏も巨額の寄付をしています。何かあったとしても、それを打ち消すに充分な話です。ライブドアの堀江貴文氏(ホリエモン)も村上ファンドの村上世彰氏もこのような寄付を少しでもしていれば、叩かれるばかりではなかったと考えますが…。
BUBIさんの小説があるのを知りました。時間のある時に読ませていただきます。
投稿: Kirk | 2007年4月 9日 (月) 午後 01時09分
「市場原理主義」という言葉を、藤原氏がどのように定義付けをしているのかは、きっと本を読んでみないと分からないのだろうな、と思いますが、基本的に「金持ち」が一番、という価値基準にはやはり疑問を感じます。
テーマとしては共通してるような気もしますので、私の過去の記事をトラックバックさせていただきます。よろしければお目通し下さい。
投稿: BUBI | 2007年4月 6日 (金) 午後 07時19分
こんばんは!
TBありがとうございました^^・
記事を興味深く拝読させて頂きました。
私は、子どもが2人おりますので、昨今の教育については、色々と考える機会があります。
特に、「自分さえよければいい」という考え方は、広く根強く浸透していて、親や子供、そして社会を蝕んでいると思っております。
ここで具体的な話は出来かねますが、それぞれの人間が、個を重んじるあまり齎された弊害は、いつも身近に感じています。
今の教育は、大切な心の教育が置いてけぼりなのではないでしょうか。
日本は、未来の子供達を、どう教育したいのでしょうね。
投稿: 由香 | 2007年3月17日 (土) 午後 10時35分