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2007年2月15日 (木)

書籍「ヤバい経済学」を読んで

 スティーヴン・D・レヴィットとスティーヴン・J・ダブナーが共著した書籍「ヤバい経済学 悪ガキ教授が世の裏側を探検する」を読みました。実に久し振りに「目から鱗が落ちる」感じがしました。世の中には同時に起きる2つの現象を、原因は別にあるにもかかわらず、間違って原因と結果にしていることが多いのではないかと改めて思いました。例えば、安易な例ですが、風邪を引いたために熱が出てフラフラする場合を考えてみましょう。本当の原因(病因)は風邪で、熱が出ることとフラフラすることは現象(症状)のはずです。しかし、我々は時として熱が出ているのでフラフラすると考えることがありますね。

 本書では、このような原因と現象を取り違えそうな話が沢山紹介されております。突っ込んだ内容は今後の読者のためにもちろん差し控えますが、次のような話題が出て参ります。いずれも確実な統計データが入手できるものについて、回帰分析を行い相関があると考えられる2つの事項に関して、それらが同時に発生する現象同士(相関関係)なのか原因と結果(因果関係)なのかを面白く分析・推論しております。

  • 学校の先生と相撲の力士は一部インチキをする者がいる
  • ク・クラックス・クランと不動産屋さんは情報の力でもっている
  • ヤクの売人はトップの一部が儲かっているだけ
  • 犯罪の減少に役立ったと言われていることはかなり的外れ
  • 完璧な子育てに役立つと思われていることもかなり的外れ

 私は、4番目の点を日本の交通事故死者数と比較して述べたいと思います。本書では、米国では1990年頃までは犯罪が増加し続けていたが、1990年代初めに犯罪発生率が下がり始め結局40年前の水準に戻ったことを紹介しています。犯罪減少の説明としては、①画期的な取締まり戦略、②懲役の増加、③クラックその他の麻薬市場の変化、④人口の高齢化、⑤銃規制の強化、⑥好景気、⑦警官の増員などいろいろなことが提起されたが、この中で間違いなく関係あるのは②と⑦だそうです。しかし、最も犯罪減少に貢献した事実は1970年代初めに中絶が完全に合法化され、将来の犯罪者予備軍となる不幸な生立ちを持った子供達が生まれなかったことだと言うのです。つまり1990年代初めには、ちょうど10代後半から20歳になる犯罪予備軍の数が大幅に減ったと言うのです。本当にこれは裏をかかれたあっと言う指摘でした。

 ところで、この理屈を日本の交通事故死者数がこのところ減少し続けている事実に適用できないかと考えました。交通事故死者数は、1990年頃がピークらしく11,227人でした。それが、1995年には10,679人になり、2000年には9,066人、そして2005年には6,871にまで減少しました。この理由としては、米国の犯罪減少の場合と同様に、取締まりの強化とか警官の増員とかがあるのだと思います。しかし、本当の理由は交通事故を起こしやすい危険な運転をすると言われている若年層の人口が減少傾向にあることではないのでしょうか。若年層は事故の確率が高く、任意の自動車保険でも保険料が割高になっていると思います。例えば、18歳から22歳までの人口を試算してみると、1990年は961万人、1995年は984万人、2000年は817万人、2005年は736万人となります。1995年は戦後まもなく誕生した第一次ベビーブーマーの子供達(第二次ベビーブーマー)がちょうど成人する頃に当たっておりました。交通事故死者数と18歳から22歳までの人口とは相関がありそうですね。これ以上の分析は私にはできませんが、最近若者の目に余る暴走行為も余り人口に膾炙しなくなった(注)ことも考え合わせると、自分の仮説・推論に何となく納得してしまいました。さて皆さんはどうお考えになりますか。

(注)ここの「最近若者の目に余る暴走行為も余り人口に膾炙しなくなった」という表現は、「最近若者の目に余る暴走行為も余り話題にならなくなった」という意味で使いました。話題にならないからといって暴走行為が減っている証拠にはなりませんが、減っている可能性を示す傍証になるかと考えました。Skywriterさんからのコメントで指摘されておりますが、この元々の表現は適切ではないとのことですので、読者の方には真意を汲み取っていただきたいと思います。

  • 真実への 扉を開く ヤバい理屈

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コメント

 Skywriterさん
 コメントありがとうございました。
 交通事故死者数の減少仮説に関する参考文献、『事故と心理』(中公新書 吉田信彌)をご推薦下さいましたこと、併せて感謝申し上げます。参考にさせていただきます。
 それから「最近若者の目に余る暴走行為も余り人口に膾炙しなくなった」という表現に関するご指摘もありがとうございました。「最近若者の目に余る暴走行為も余り話題にならなくなった」(だからといって交通事故死者数が減少していることに直接結び付けられる訳ではありませんが)という意味で軽く使ってしましいましたが、誤用のようですので今後気を付けたいと思います。
 では、今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: Kirk | 2007年3月25日 (日) 午後 09時57分

トラックバックありがとうございます。
本当に目から鱗が落ちるような刺激的な本でした。
こういう本との出会いは、本を読んでいる間だけの楽しみを超えた喜びがありますね^^

さて、事故仮説についてですが、『事故と心理』(中公新書 吉田信彌)がまさに参考になると思います。
この本では免許保有者1万人当たりの自動車運転中の死亡率の年次推移が載っているのですが、それを見ると93年をピークに事故率が下がっているのが一目瞭然です。

若者の死亡率の減少は他の年齢層と比べて顕著である、というのが統計的な結論のようです。
(ここで比較しているのは1万人当たりの死亡率なので、当該年代の人数の増減は問題になりません)

事故と年齢の関係など、面白い話題も多々ありますのでもし興味がおありでしたらどうぞ。

あと、ちょっと気になった表現なのですが、「最近若者の目に余る暴走行為も余り人口に膾炙しなくなった」ということであれば、「若者の暴走行為はほとんどの人から好まれなくなった」という意味になるので推論とは反対になってしまうと思うのですが・・・・・・^^;

投稿: Skywriter | 2007年3月25日 (日) 午後 04時43分

TBありがとうございました。この本のポイントはまさにKirkさんのおっしゃることそのものですね。また交通事故死者数に関する仮説も僕も納得しました。年齢別の死者数のヒストリカルデータがあればもっと明白でしょうね。

投稿: エリーゼ | 2007年2月17日 (土) 午前 11時29分

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