最近観た映画(2012年3月#10:マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙)
今年の第84回アカデミー賞主演女優賞を獲得したメリル・ストリープが、元英国首相のマーガレット・サッチャー役を熱演していました。首相になる直前から辞任するまで、また少々認知症を患っているという老いて一人暮らしの現在の姿を、見事に演じ切っていました。メリルは相当にマーガレット・サッチャーを研究したらしく、話し方、声のトーン、立居振舞はまさに元首相本人がそこにいるようでした。メリルは、過去にダスティン・ホフマンと共演した「クレイマー、クレイマー」で第52回アカデミー賞助演女優賞(第52回、1980年)を、「ソフィーの選択」で主演女優賞(第55回、1983年)をそれぞれ受賞しております。また本作は今年のアカデミー賞メイクアップ賞も得ております。
英国の元首相ですから、よく知っているようですが、映画の中には知らないことが沢山ありました。マーガレットが雑貨商の娘だったこと、デニス・サッチャー(ジム・ブロードベント、「家族の庭」で主演)が彼女を政治家にするために結婚し生涯支え続けたこと、彼女はあえて上流階級の話し方を真似ていたこと、男と女の双子がいたこと(だから出産は一回だけ、政治家には重要なことかもしれません)、フォークランド紛争(戦争)で死亡した256人の英国軍将兵の家族に首相直筆で感謝と哀悼の手紙を贈ったこと、この紛争に勝利することで首相支持率が急回復したこと、首相辞任直前にはあれ程閣僚をいびっていたこと、等々です。
それにしても、マーガレットが政治家を志した時の初心を絶対に忘れなかったことは、物凄いことだと思いました。誰でも思想転向がありえるし、考え方は変わるものです。特に政治家は自分が次に落選しないように、つまり大衆に迎合するように変わりやすいものです。「人は自分の足で立たなけければいけない」というのが、彼女の信念だったように捉えました。ケネディ元米国大統領もその就任演説で、「国が何をしてくれるかと考えるより、自分が国に何をできるかを考えてほしい」と言っていたのを思い出しました。
翻って我国の情況はいかがでしょうか。自分の足で立っていない人が結構いるように感じます。それは、満員電車の中で他人に寄りかかっている人達のことだけではありません。自分を国が助けるのが当たり前だと思ってはいませんでしょうか。主権在民という言葉を履き違えていませんでしょうか。主権在民とは、「国家の在り方、つまりどの国と仲良くするのかという外交の問題や自国を防衛するための安全保障の問題については、国民の意思で決定する」ということを意味しています。国が国民を助けるのではなく、決めた主権を守るために国民が国を助けなければならないのです。具体的には、納税や兵役等の話になります。
原作はマーガレットの娘のキャロルが書いた回想録とのことです。もちろんキャロルも映画に登場しております。映画の原題はただの"The Iron Lady"ですが、邦題は随分長くしたものですね。「鉄の女」=「マーガレット・サッチャー」という具合には、日本ではならないのでしょうか。監督は、前作「マンマ・ミーア」でもメリルと組んだフィリダ・ロイド(女性監督)だそうです。現在と回想を上手く織り交ぜながら、マーガレットの人生を浮き彫りにしております。特別な驚きはない映画ですが、手堅くまとめた、なかなか構成のいい作品だと思いました。
細部の話になりますが、ユル・ブリンナの舞台「王様と私」がマーガレットとデニスの思い出として貴重な役割を果たします。特に二人が結婚を決めた時には、「シャル・ウィ・ダンス」の曲で一緒に踊ります。それから映画「おとなのけんか」でコメントした言葉"despicable"が、マーガレットの口から突然出て参りました。英国では相手を徹底して遣り込める時に使う一言なのではないでしょうか。
- マーガレット 初心を忘れず サッチャーに
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