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2013年2月の5件の記事

2013年2月26日 (火)

最近観た映画(2013年2月#17:先祖になる)

 3月9日付朝日新聞のコラム「ひと」でも紹介された池谷(イケヤ)薫監督(54歳)が、77歳の頑固老人・佐藤直志さんの1年半を追ったドキュメンタリー映画です。太古の昔から、このような人が集落の基礎を作ってきたのではないかと思わされました。2011年3月11日に発生した東日本大震災の39日後、津波ですべての物がすっかり流された岩手県陸前高田市気仙町荒町地区の映像で始まります。

 2階まで浸水したが流されなかった自宅に留まる佐藤さんは、半農半林と言います。奥さんと息子の嫁さんも避難所に移らずしばらく一緒に住んでいます。毎朝やはり流されずにすんだ高台にある寺のお堂に向かってメガホンで「おはよう」と声をかけます。息子は地元の消防団副団長として人命救助に当たっている時に、津波に流されて亡くなりました。

 佐藤直志さんの夢は、いつしか朝日の当たる自宅を同じ場所に再建することに固まります。一人だけ自宅に残り、超人のように、水田を耕し稲作を続ける、ソバを蒔く、そして山に入り自宅再建用の材木を伐採します。町の人々は力を合わせ、地元の喧嘩七夕の山車を一台完成させ、震災後最初の夏に繰り出します。翌年(昨年)の夏には2台となり、2台によるぶつかり合いができるようになりました。そして、1年半後にはついに佐藤直志さんの自宅が完成し、家族郎党一同が集合します。

  • 人間の 気合に ただただ 眼を凝らす

(注)実際は本記事の日付より後に記事を書きましたので、3月9日付朝日新聞の記事を引用させていただきました。

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2013年2月19日 (火)

最近観た映画(2013年2月#13:故郷よ)

 チェルノブイリ原発事故が起きたのが1986年4月26日、それから25年程経って立入り制限区域内で初めて撮影された映画が本作「故郷よ」です。イスラエル出身で今はフランスで暮らす女性監督ミハル・ボガニムが脚本と監督を兼ねました。彼女の母方にはチェルノブイリのあるウクライナの血が流れているそうです。立入り制限区域内での撮影許可を得るのには相当に苦労したらしく、余りいい話ではありませんが、やむを得ずダミーの脚本も用意してようやく許可されたという話もあります。

 本作品は仏・ウクライナ・ポーランド・独の4ヶ国による合作で、仏語、露語そしてウクライナ語が使われているようです。原題は仏語で"La terre outragee"、直訳すると多分「踏みにじられた(穢された)大地」という感じでしょうか。原発事故で汚染された故郷を追われた人々のつらい経験を描いております。邦題「故郷よ」は明るく、前向きでいいのですが、少し本作の狙いからはそれているかもしれません。

 主役アーニャを演じるのは、ウクライナ出身の女優オルガ・キュリレンコです。2008年の「007/慰めの報酬」ではボンドガール・カミール役に抜擢され、注目されました。本作に惚れ込んだ彼女は、自ら監督にアーニャ役の志願をしたそうです。美人過ぎるという反対意見もあったようですが、体当たりの演技で幅広い役柄を演じられることを示しています。小振りですが、魅力的なパイオツも披露してくれました。

 物語は事故直前のプリピャチの美しい自然と人々の生活から始まります。1986年4月26日にアーニャは消防士のピョートルと結婚式を挙げます。そこで加藤登紀子がカバーしていた「百万本のバラ」が歌われます。ロシア語の流行歌謡曲だったんですね。新婦も歌い始めた時に、ピョートルが森林火災の対応で駆り出されます。

 10年後母と隣町スラヴィティチに暮すアーニャは、月の半分はチェルノブイリの観光バスのガイドをしています。髪が大量に抜けるアーニャの心が、夫の同僚で、彼女を慕うセルゲイとプリピャチで暮らすか、フランス人の恋人パトリックとパリに移住するか、それとも母と住みガイドを続けるかの選択の狭間で揺れるところをとても巧く描いていました。

 私見ですが、福島原発事故に参考になるところも多かったと思います。ただ、絶対的に違うのは国土の広さです。チェルノブイリ事故では、約40万人が故郷を離れ、500万人以上が汚染地域で暮らすことを余儀なくされているそうです。チェルノブイリ事故の放射線被曝による死者数は、チェルノブイリ・フォーラムの発表では4,000人になっていますが、最終的には5~9万人になると見られているとのことです。

  • 人類の 意にならぬもの 原子力

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2013年2月16日 (土)

最近観た映画(2013年2月#11:ゼロ・ダーク・サーティ)

 正直に言って、こんな映画は初めてだったかもしれません。2時間半を越える長尺にもかかわらず、次に何が起こるかという緊張が続き、一睡どころかまぶたを閉じることもできない状態でした。夕食時にグラス1杯の生ビールと300mlの冷酒を飲んだ後でもあるのにですから、なおさらです。直前に観た映画「ダイ・ハード ラスト・ディ」では、話が単調なのでところどころ記憶がありません。これとは大違いでした。

 パキスタンのアボッターバードにあった、オサマ・ビンラデンのアジトを突き止め、ネービー・シールズの部隊が強襲し、彼を殺害したのが、もう2年前の2011年5月2日でした。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロから10年目でした。諜報戦も含めた米国の底力を感じました。さらに、米国ではこういう映画を作ることができるという、表現の自由のレベルにも感心しました。

 ジェシカ・チャステインが扮する、能力の高いCIA情報分析官マヤは、いかにも現実にいそうでやや興奮しました。多分実在の人物と似た女優を使っているのでしょう。彼女と彼女の同僚達は、テロリストのビンラデンを10年間も追い続けたのです。途中ロンドン等で何度もテロが発生し、ついにはマヤは米軍基地で仲の良い同僚女性を失います。

 ビンラデンのアジトらしきものを発見してから、強襲するまで約200日あったとは、また新たな驚きでした。イランの大量破壊兵器に関する失敗が明らかにCIAのトラウマになっていたようです。とにかくビンラデンの姿を確認することを、上層部から要求されたのです。マヤが100%ビンラデンがいると主張し続けたので、強襲することになりました。

 シールズ部隊による強襲シーンは、ヨルダンに造ったセットとともに、とてもリアルでした。ビンラデンを殺害した後、彼の死体とともに、あらゆる資料とハードディスクが回収されました。当然と言えば当然ですが、抜かりのない行動だと思いました。テロの首謀者の殺害よりも、これら情報回収がテロリスト達の弱体化に大いに役立つと考えました。

 「ハートロッカー」で一緒にアカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞等6部門を受賞した、キャスリン・ビグローが監督し、マーク・ボールが脚本を担当しています。本作は今年の第85回アカデミー賞で作品賞、主演女優賞、脚本賞等5部門にノミネートされています。原題も同じ"Zero Dark Thirty"で、強襲を行った時間(午前0時30分)を意味するようです。

  • 執念の 諜報作戦 今ここに

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2013年2月 4日 (月)

最近観た映画(2013年2月#3:ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日)

 動物の描写、特に水中の人間や動物の動きに3Dを応用するとどうなるかという問いに、この映画は答えていると思います。水中での3Dを駆使した人間、虎、魚たちの動き・姿にはとても感動しました。また、朝昼夜いろいろな光の中、上空や海中から漂流するボートの姿を映した美しい映像には真に感心しました。

 そもそも映画になりそうもない、カナダ人作家ヤン・マーテルのベストセラー小説「パイの物語"Life of Pi"」(2001年)を3Dにできたのは、アン・リー監督の執念が実ったものと考えられます。アジア出身監督で初めてアカデミー賞監督賞を獲得しただけのことはあります。VFXには相当なリソースが注ぎ込まれたと思われます。エンドロールの最後に表示されましたが、本作の制作に係わった人数が1万4千人、そ して費やした人的リソースが60万人時というのも妙に納得させられました。

 父親が創業したインドの動物園で生まれた主人公パイが、なぜ円周率πを意味する名前を名乗るようになったかから物語は始まります。時代の流れで動物園が行き詰まり、動物をカナダで売却するために、一家と動物たちは日本の船に乗船します。途中マリアナ海溝の辺りで遭難し、パイは結局ベンガルトラのリチャード・パーカーと長く漂流することになります。これからの映画では、話題豊富なインドとインド人の存在が大きくなるのではないかと感じました。

 撮影は元フランス領のインド・ポンディシェリとリー監督の故郷台湾で主に行われたそうです。台中の飛行場跡に世界最大級のタンクを作り、そこを撮影に最大限に活用したとのことです。映画の原題は小説と同じですが、邦題は小説の翻訳版とは異なり英語のカタカナ読みになり、やや長い説明文が付けられました。本作は、今年の第85回アカデミー賞の作品賞を始めとした主要11部門にノミネートされています。

  • 海の中 リアルよりリアル ただ感嘆

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2013年2月 2日 (土)

最近観た映画(2013年2月#2:マリーゴールド・ホテルで会いましょう)

 老人達の映画だというので少しヒケましたが、実に明るくて、ユーモアたっぷり、とても前向きな作品でした。英国から老後の暮らしのためインドに渡った7人の話です。舞台はインド、何でもアリの世界です。生と死、大富豪とホームレス、高邁な思想と貧困、カラフルな色と喧騒、等々にあふれています。映画界ではここしばらくはインド・ブームになるのでしょうか。昨年はインド映画「ロボット」がブレークしましたし、今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされている「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」もインドに関係した話です。

 映画のタイトルにあるとおり、舞台はインドのホテルです。原題は"The Best Exotic Marigold Hotel"ですので、文字どおりならば「最高級の異国風マリーゴールド・ホテル」ですが、実は廃屋のホテルでした。そこへ英国から訳ありの7人が甘い言葉に誘われてやって参ります。異国でそれぞれがそれぞれの第二の人生を歩み始めます。しかし、皆なぜか明るく前向きなのです。父親のホテルを再建しようとしているインド青年の恋も、昔の日本に似たインドの慣習と戦うという未来志向で描かれます。

 インドは英国の旧植民地であり英語が通じます。母国語が通用するというとても便利な点は違いますが、日本人が東南アジアで老後を暮すというライフスタイルを考えさせられる映画でした。どこで暮らそうと、いつも気持ちは前向きでなければならないと感じました。英・米となぜかUAE(アラブ首長国連合)の3国合作でした。

  • 人生は いつも前向き 日々新た

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