1月19日~1月25日の週に観た劇場映画
1月19日(日曜)~1月25日(土曜)の週は、8本の劇場映画を観ました。年が明けると、今年のアカデミー賞を狙う作品群がどんどん日本公開されます。
▼パラサイト 半地下の家族(韓) ⇒情報化社会、SNS社会においてますます明らかになった格差問題 特に韓国社会では顕著になっているようだが、本作は、その社会格差問題を基調に置きながら、寄生と共生の難しさをファンタジーとして表現 コメディでもあり、ホラー・サスペンスでもあり、すべてを融合するのはとても難しそうだが、微妙なバランスを保っていることに驚く 監督(兼共同脚本)は「スノーピアサー」(韓・米・仏・2013)でも階級闘争を描いたポン・ジュノ(韓国大邱市出身・1969~) 昨年(2019年)のカンヌ国際映画祭では、クエンティン・タランティーノ(米国テネシー州出身・1963~)監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(米・2019)やケン・ローチ(英・1936~)監督の「家族を想うとき」(英・仏・ベルギー・2019)などを抑えて、全会一致で韓国映画初のパルム・ドールを受賞 プールの中に造った半地下の家や高台にある超高級住宅など、道路以外はすべてセットを構築したというポン監督のこだわりが分かる 筆者にはやや違和感を感じた点が2点 一つ目は、豊臣秀吉(1537~1598)が李氏朝鮮(1392~1910)に攻め込んだ、文禄の役(1592~1593)と慶長の役(1597~1598)の時に、朝鮮側水軍の指揮官だったイ・スンシン(李舜臣・1545~1598)将軍がパーティの飾り物で登場したこと イ将軍は日本との海戦で決定的な役割を果たしてはいないようだが、救国の英雄とされている 日本のパーティで日清戦争(1894~1895)や日露戦争(1904~1905)の英雄、東郷平八郎(1948~1934)元帥海軍大将や乃木希典(1949~1912)陸軍大将が登場するだろうか 二つ目はモールス符号(発明:1837・国際規格:1851)も登場し、短音を「トン」、長音を「ツー」と表現しているが、これは日本から導入された表現方法ではないか 英語では、そもそもモールス符号はドット(点)とダッシュにより構成されており、それらは「ディ」と「ダー」と省略して表現されているようだ 英語原題も"Parasite"=「寄生虫、寄生」
・ジョジョ・ラビット ⇒米国コネチカット州州都のハートフォード生まれで、ベルギー国籍も有し、2006年からはニュージーランドで暮らす作家クリスティン・ルーネンズ(1964~)の小説"Caging Skies"(2008)(直訳すると「檻・籠に閉じ込められた空」か:未邦訳)が原作 ルーネンズはイタリア人の母とベルギー人の父の娘で、若い時はフランスでファッション・モデルをしていたようだ 1996年頃から小説家を目指し、2000年にはフランス・ノルマンディーにあるカーン平和博物館で本原作小説のヒントを得たようだ それは第二次世界大戦(1939~1945)中のオーストリア・ウィーンでの出来事で、ヒトラー・ユーゲント(ナチス党の地域青少年教化組織)の一員を目指すジョジョ(ヨハネス・ベツラー)が、彼の両親が自宅に匿っていたユダヤ人少女を発見したこと ニュージーランドの映画監督・脚本家・俳優・コメディアンであるタイカ・ワイティティ(首都ウェリントン出身・1975~)が映画化(兼脚本・出演) 原作小説にも強い賛否があるようだが、筆者にも違和感が残った 本作では、ジョジョの空想であるアドルフ・ヒトラー(1889~1945・ワイティティ監督が演技)が登場し、ジョジョを励ますが、同時にそれらがヒトラー及びナチスを揶揄し、皮肉るものなのだろう ジョジョの心境の変化そして独り立ちは充分理解できるが、一歩間違えると扮装ではあるとしてもナチスの恰好をして騒ぐことを助長するのではないか またビートルズの楽曲とともに作品がスタートするので、現代の寓話だと誤解する人もいるのではないか ロケ撮影はチェコの首都プラハで主に行われた模様 原題も"Jojo Rabbit"
・ペット・セメタリー ⇒米国メイン州ポートランド出身のモダン・ホラー小説家スティーヴン・キング(1947~)の原作小説"Pet Cematary"(1983)(邦訳:「ペット・セマタリー」1989)の2度目の映画化 1度目は邦訳本も出版された1989年 「ペット霊園」を意味するタイトルの正しい綴りは"Pet Cemetary"であるが、子供たちが可愛い綴りミスをしたいう前提で"Pet Cematary"としているらしい 本作の原題も綴りミスをした方だが、邦題は正しい綴りとしているようだ 原作小説は余りの恐ろしさに出版をしばらく見合わせていたという逸話があるくらいで、ホラー映画に慣れている筆者でも数度はかなりドキッとした 米国バーモント州ラッドロー(Ludlow)という実在の町で起きる、森に魔力があるという不思議な事件が題材 1度目の映画化では弟が事故死するが、2度目の映画化の本作では姉が事故死 観客は最初は男ばかり10数人だったが、開映間際に女性が3人加わった▼イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり(米・英) ⇒英国の気象学者ジェームス・グレーシャー(1809~1903)が高空の大気の温度と湿度を測定するために気球飛行をした史実に基づく作品で、自然科学に興味があれば実に面白い 1862年9月5日にグレーシャーは、気球操縦士とともに、当時フランス人が持っていた高度7,000mの世界記録突破を目指して飛行し、高度11,277m(約7miles)まで到達 これは酸素ボンベなしでの気球飛行記録として現在まで破られていない記録だそうだ グレーシャーはこの飛行で成層圏内の温湿度測定を行い、気象学の発展に大いに寄与 本作では、男性操縦士を女性と設定変更しフェリシティ・ジョーンズ(英国バーミンガム出身・1983~)が演じ、グレーシャーをエディ・レッドメイン(ロンドン出身・1982~)が演じる この2人は「博士と彼女のセオリー」(2014)でダブル主演しており、息の合ったところを見せている 両者は第87回アカデミー賞(2015)主演男優賞と主演女優賞にノミネートされ、レッドメインが主演男優賞を受賞 本当に飛行できる19世紀型ガス気球の精巧なレプリカを建造したこと、2人は撮影のため実際にその気球で高度900mを飛行したこと、特にフェリシティは高度600mで気球によじ登ったことなどが、撮影秘話として特筆される 原題は"The Aeronauts"=「気球操縦士」
▼フォードvsフェラーリ ⇒やはり事実に基づき、実写をフル活用して製作された作品は面白い 本作を製作したジェームズ・マンゴールド(ニューヨーク市出身・1963~)監督(兼製作・脚本)は、本作に約105億円の製作費をかけたそうで、映像は実にリアル 同監督は「LOGAN ローガン」(2017)でやはり約105億円、「ウルバリン:SAMURAI」(2013)では約140億円を費やしたらしく、この金額は不思議ではないのだろう ロケ撮影は2018年夏~初秋に米国カリフォルニア州とジョージア州、そしてフランスのル・マンなどで行われた模様 フォード・モーターの本社・工場、マイルズのワーク・ショップ(ガレージ)、フェラーリ本社、米国内のレース・コースやテスト・コース、そしてル・マン24時間レースのコースまで緻密で膨大なセットを米国内に構築 本作は、1)ル・マン24時間レースでも優勝したことのある優秀なドライバーだが、病気のため引退しレーシング・カーのデザイナーになったキャロル・シェルビー(テキサス州出身・1923~2012)が、英国から移住した優秀な整備工・ドライバーとして活躍していたケン・マイルズ(英国出身・1918~1966)と組むところ、2)フォード社は、大衆車からレーシング・カーまでにラインナップを拡大させようとするリー・アイアコッカ(ペンシルベニア州出身・1924~2019)営業担当役員の主張に沿い、イタリアのフェラーリ社の買収に乗り出すが失敗し、ル・マンでフェラーリに勝利することを目指すところ、3)フォード社はシェルビー・マイルズと組んで、無尽蔵の資金提供をし、フォードGT40を製作・改良し続け、ついに1966年6月のル・マンで、フェラーリに勝利し1~3位を独占するところ、などを描く シェルビーを「オデッセイ」(2015)のマット・デイモン(マサチューセッツ州ケンブリッジ出身・1970~)が、マイルズを「バイス」(2018)のクリスチャン・ベール(英国ウェールズ出身・1974~)がそれぞれ演じている 当然ながらスタント・ドライバーが多数おり、また実写映像が多いがVFXも使われている 原題も"Ford v. Ferrari"で邦題どおり
・記憶屋 あなたを忘れない ⇒ロンドン生まれで神戸市在住の弁護士・小説家の織守(おりがみ)きょうや(1980~)のホラー小説「記憶屋」(2015)の映画化 映画作品自体はホラーよりファンタジー的だと思う 誘拐・強盗・強制性交の被害者のトラウマを避けるために、その記憶を消すという意図は分かるが、この場面でどうしてそうなるのかという必然性が少し理解できないところがあった 主役2人の故郷が広島で首都圏の大学に通学中という設定なので、ロケ撮影は昨年の冬に広島県と、東京都、神奈川県、栃木県、山梨県などの首都圏で行われた模様
・ナイト・オブ・シャドー 魔法拳(中) ⇒ジャッキー・チェン(香港出身・1954~)主演で、中国・清代の怪異短編小説集「聊斎志異(リアオ・ツァイ・ツィ・イ)」の作者・蒲松齢(プ・ソン・リン・1640~1715)をモデルにした作品 主人公・蒲松齢が陰陽の筆で妖怪を地獄に封じ込める アニメ・VFX大活用で、またボリウッド(インド・ムンバイ)作品のように唄・音楽と踊り・ダンスも織り込まれている エンドクレジットのデザイナー・ポスプロ・VFX担当には千数百人の名が 原題は「神探蒲松齢 "The Knight of Shadows: Between Yin and Yang"」(中・英)=「探偵蒲松齢 影の騎士:陰と陽の間」か
・サヨナラまでの30分 ⇒完全オリジナル脚本による、音楽バンド・ファンタジー作品 ゴースト的な話だが、発想は結構面白い 本作のために6曲ものオリジナル楽曲が創られたのも特筆される 北村拓海(東京都出身・1997~)は歌手でデビューし、実際にバンド活動もしており、歌もうまいことは知らなかった ヒロインの久保田紗友(さゆ・2000~)は売出し中だが、筆者の故郷でもある札幌市出身なので言及したい ロケ撮影は昨年(2019年)夏長野県松本市、塩尻市などで行われた模様
(注)★はお薦め、▼は特定のマニア向け作品 製作国の表示がないものは米国か日本の作品
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