3月に観た劇場映画
3月は5本の劇場映画を観た やっと3月分を書き上げた
・フェイブルマンズ(151分・米・2022)
・Winny(127分・日・2023)
・メグレと若い女の死(89分・仏・2022)
・エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(139分・米・2022)
・零落(128分・日・2022)
(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品
・フェイブルマンズ(151分・米・2022) ⇒世界最高のヒット映画作品を次々と生み出すスティーヴン・スピルバーグ監督(1946~・米オハイオ州シンシナティ出身)が製作した自伝的作品 映画に興味を持ち魅入られた少年時代からユニバーサルで映画製作に係われるようになるまでの家族の歴史を描く やや長編だがあきることはない 月刊文藝春秋4月号に掲載されている、ジャーナリストの成田陽子が書いている「スピルバーグが語るスピルバーグ」によれば本作のタイトルには彼のファミリー・ネームと次のような関連があるという スピルバーグは元々のドイツ語では「娯楽山・芝居山」という意味 本作原題"The Fabelmans"は「おとぎ話一家・寓話家族」という意味でこれはスピルバーグ一家を指しているのだという スピルバーグ少年がニュージャージー州在住時代に最初に魅入られた劇場映画はセシル・B・デミル監督(1881~1959・米マサチューセッツ州アシュフィールド出身)の「地上最大のショウ」(152分・米・1952) スピルバーグ少年は、父親の仕事の関係でアリゾナ州に移住した後、17歳の時にカリフォルニア州のユニバーサル・スタジオ・ツアーでうまくもぐり込みジョン・フォード監督(1894~1973・米メイン州ケープ・エリザベス出身)に短時間面会 フォード監督の「リバティ・バランスを射った男」(123分・米・1962)に憧れていたそうだ 家族キャンプの時に撮影された母親の秘密やカリフォルニア州立大学進学後に受けたユダヤ人差別も隠さずに表現されている コロナ禍で外出制限が課された時期に皆が内省的になったようで、映画監督の自伝的あるいは劇場映画に関する作品が連続しているような気がする 撮影は2021年に米国カリフォルニア州ロサンゼルス近郊で行われたものと想定される
・Winny(127分・日・2023) ⇒本作を理解するためにはまずWinnyとはいったい何なのかをある程度分かっていなければならないと思う 筆者の理解はこうだ 今は家庭にあるパソコン(PC)もいつもネットワーク(インターネット)につながっている 何かの情報・データ・コンテンツ(映像やゲーム)を交換あるいは配付したいと考えれば、PCからPCへ直接送り込めるはず(これは普通はコンピュータを介して行われるので、コンピュータにはいつ誰が何を交換・配付したかが記録として残ってしまう) これをできるようにしたのがWinnyだったと思う 映画作品やゲームのファイルを探せるようにすれば、悪意があれば、というかただちに著作権を無視して無料でコンテンツを入手できる訳だ 半分面白半分で始まったのかもしれないが、著作権で収入を得ている者たちにとっては悪夢のような話 しかもすべては暗号化されており、誰が誰にファイルを渡したかが分からないようにしてあったようだ Winnyは当時東大特任助手だった本作の主人公金子勇(1970~2013・栃木県現栃木市出身)=東出昌大(1988~・埼玉県出身)が2003年に公開したところ、急速に広く使われるようになった ネットを使ったサイバー犯罪に先進的に取り組んでいた京都府警が、2001年には著作権法違反でこの種のファイル共有(交換)ソフト利用を摘発し始めた ネット犯罪の場合どこにでも被害が発生する可能性があるので、京都府警は京都府で発生した事件として京都府以外に在住する被疑者にもどんどん手を伸ばし成果を求めたようだ 一方で府警内での裏金作りも行っており、それも本作内で欺瞞として描かれている 金子は2004年に京都府警により逮捕され、著作権法違反ほう助という疑いで京都地方裁判所に検察により起訴された 2006年12月京都地裁は罰金150万円という判決を言い渡すが、検察側・被告側両者とも控訴 2009年10月大阪高裁では逆転無罪となり、2011年12月最高裁も検察の上告を棄却し無罪が確定 本作では金子の逮捕から弁護団の編成、弁護費用の寄附募集、主に地裁の裁判模様、そして彼の死などが描かれる Winny弁護団事務局長として大活躍した壇俊光弁護士(1971~・大阪府池田市出身)はIT分野の案件を得意とするバリバリの現役 壇弁護士役を演じた三浦貴大(1985~・東京都港区生まれ)は実際に壇にも会って彼の話し方や身振り手振りを徹底的に覚えたそうだ 同じピア・ツー・ピアという技術を使っているブロック・チェーン方式の暗号通貨(2009~)やメッセージ・アプリのテレグラム(2014~)がいくら犯罪に応用されたとしても、そのソフト開発者は逮捕も処罰もされていないのでWinny裁判の判決も妥当かとも思う しかし余りにも犯罪に使われることが明らかな場合は国によってはソフトの使用禁止も行われているらしい Winnyは著作権法違反以外の使い方が思い付かないとしてその違法性を問う声もある ちなみに2010年1月1日より改正著作権法が施行され、従来ファイルのダウンロードは「私的使用のための複製」として扱われ違法とはされていなかったが、新たに「違法なファイルと知りながらダウンロードする行為」が違法とされることとなった 撮影は2021年夏から栃木県佐野市、東京都文京区などで行われたようだ 佐野市では廃小学校の体育館に法廷のセットを造り込み、クランク・インの1ヶ月前から模擬裁判で演技練習をしたらしい
・メグレと若い女の死(89分・仏・2022) ⇒フランスの映画監督パトリス・ルコント(1947~・パリ出身)がジョルジュ・シムノン(1903~1989・ベルギー・リエージュ出身)の同名原作小説(1954)を脚本も兼ねて製作 筆者はシムノンのことをほとんど知らなかったが、20世紀で最も人気のある作家の1人で約400冊の小説などを出版し5億部以上を売り上げているとか ルコント監督は主役のメグレ警視に堂々たる体躯のジェラール・ドパルデュー(1948~・仏シャトールー出身)を起用 本作は原作とは物語展開が少し異なるようだが、1950年代のパリ下町の様子をよく再現していて、美術・照明・撮影など秀逸 当時も夢を抱いて田舎から都会に出てきて苦労する若い女性たちが沢山いたようで、彼女たちが上流社会に翻弄され巻き込まれていく犯罪をやや悲しげに描く 原題は単に"Maigret"=「メグレ」 ルコント監督は最後のメグレ作品にするつもりでシンプルなタイトルにしたそうだ
・エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(139分・米・2022) ⇒話の展開がもの凄く速いのと、メタバースではなくマルチバースという多元宇宙を扱っているようなので、正直内容がよく分からなかった B級作品として単純に楽しめばいいという意見もあるが、なぜ本作が第95回アカデミー賞(2023)で作品、監督、脚本、主演女優など計7部門を受賞したのかは、筆者にはよく分からない 米国では本作のユーモアのセンスがとても受けたようだし、また米国における最近のアジア系住民を蔑視・差別する風潮を危惧して、アジア系監督とアジア系俳優陣にハリウッド業界が敬意を表したのかもしれない 監督・脚本はダニエルズという2人組だが、ダニエル・クワン(1988~・マサチューセッツ州ボストン郊外のウエストボロー出身)の父親は香港出身で母親は台湾出身 主演女優賞を獲得したミッシェル・ヨー(1962~・マレーシア・ペラ州イポー出身)は中国系マレーシア人 当初は主演としてジャッキー・チェン(1954~・香港出身)を想定していたようだが、最近は中国共産党寄りを明確にしている彼が主演していたら、多分嫌中感の強い米国ではアカデミー賞受賞はなかったのではないか スタントやVFXもそれぞれ10人以内とスリムなので、結構キャスト本人たちが躍動していたようにも思える 撮影は2020年1月からカリフォルニア州シミ・ヴァレー、サン・フェルナンド、ロサンゼルス・エリジアン・パーク、ボレゴ・スプリングスなどで行われたようだ 特にシミ・ヴァレーにある古いビルをあたかもスタジオのように使い、建物内に自由にセットを組み立てて撮影した模様 原題は"Everything Everywhere All at Once"で邦題どおりだが、日本では「エブエブ」と呼ばれているらしい
・零落(128分・日・2022) ⇒漫画家・浅野いにお(1980~・茨城県石岡市出身)の同名原作(2017)を竹中直人監督(1956~・横浜市金沢区出身)が映画化 主演は斎藤工(1981~・東京都港区出身)で監督自身は登場しない 監督が本作原作に出会った時に是非映画化したいと考えたという 他の映画作品の関係でたまたま近くに近くにいた斎藤に話したら彼も原作を読んでいて浅野のファンだったとか 本作は人気作品となった長編漫画を完成させた後スランプに陥り、生きることに悩み放浪する漫画家を描く 主人公につかの間の安息・幻想を与えてくれる女子学生に監督の強い希望で、趣里(1990~・東京都出身)を起用 趣里は水谷豊(1952~・北海道芦別市出身)と伊藤蘭(1955~・東京都武蔵野市出身)夫妻の一人娘 撮影は2021年秋~冬頃に東京都小平市・国分寺市・調布市、横浜市中区、千葉県大多喜町・九十九里町などで行われたようだ 小平市に住む筆者には林の中を歩く主人公の姿を観て、これは玉川上水に違いないと思った 竹中監督はインタビューで答えているが、武蔵野美術大学在学中に通った、西武国分寺線の鷹の台駅(小平市)近くの喫茶店とそば屋をロケ地として使用したようだ
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