劇場映画「オッペンハイマー」を観て
★オッペンハイマー(180分・米・2023)
(注)★★は超お薦め、★はお薦めの作品
監督・脚本:クリストファー・ノーラン(1979~・ロンドン出身)
原作:"American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer"(アメリカのプロメテウス:J・ロバート・オッペンハイマーの勝利と悲劇:2005 カイ・バード(1951~・米オレゴン州出身)とマーティン・J・シャーウィン(1937~2021・ニューヨーク市出身)の共著 邦訳なし)
主演:キリアン・マーフィ(1976~・アイルランド出身):J・ロバート・オッペンハイマー(1904~1967・ニューヨーク市出身)
助演:エミリー・ブラント(1983~・ロンドン出身):キャサリン・“キティ”・オッペンハイマー(1910~1972・独出身)
マット・デイモン(1970~・米MA州ケンブリッジ出身):レズリー・グローヴス(1896~1970・米NY州出身)
ロバート・ダウニー・Jr.(1965~・ニューヨーク市出身):ルイス・ストローズ(1896~1974・米ウエストヴァージニア州出身)
原題:Oppenheimer
遅ればせながら本作を鑑賞 3時間という長編であり、コマ切れにした時間映像を前後に交差しながら組み合わせており、またカラーと白黒の映像が頻繁に入れ替わったりするので、なかなか集中できないし理解しずらい どうやらカラー映像はオッペンハイマー視点からの描写であり、白黒映像はストローズ視点からのものらしい そして結果的にカラー部分は主に第二次世界大戦(1939~1945)前・中の出来事で、白黒部分は戦後の出来事になっているようだ これだけでもずいぶん分かりやすくなる ところで、すべての撮影は65㎜のフィルムで行われておりVFXは余り使用されていないようだ
ノーラン監督はオッペンハイマーの伝記(原作)を読んで彼の半生を克明に描きたくなったようだ 時系列は滅茶苦茶だが、構成は天才理論物理の学生・研究者・教育者時代、原爆開発のマンハッタン計画時代、そして第二次世界大戦後の赤狩りの時代の3つに分けられると思う 文学・哲学・生物学等にも優れていた天才は饒舌雄弁で時々舌禍癖もあり、究極のチェーンスモーカーだったが女好きでもあったようだ マンハッタン計画では数千人の科学者とその家族をニューメキシコ州ロスアラモスに移住させ、国立研究所として原爆開発のリーダーシップをとった 一転戦後はカリフォルニア州の共産党系の人々との交流や舌禍癖から厳しい赤狩りの対象となった
1942年にマンハッタン計画のリーダーに指名したのは米国陸軍のグローヴス准将(当時・最終は中将)であり最後まで支援 ロスアラモスに研究者たちを集めるにあたっては、オッペンハイマーの欧州での研究者たちとの交流が役立ったようだ ユダヤ系のオッペンハイマーはナチスドイツより先に原爆開発をとの使命に燃えるが、原爆が地球の大気を全焼させるのではないか、またこんな極端に強力無比な兵器を実際に使用していいのか苦悩 1945年5月のナチスドイツ降伏後、7月に核実験(トリニティ)が成功 原爆はオッペンハイマーの手を離れ、当時のハリー・トルーマン第33代大統領(1884~1972・ミズーリ州選出・在位:1945~1953)が日本に使用することを決定
戦後は米国原子力委員会の幹部そして後に委員長に就任したストローズが商務長官に昇進するための材料として、個人的にも嫌っていたオッペンハイマーを赤狩りの対象へ 本件に関する数々の描写が本作のクライマックスのようにも思える 戦前の共産党との関係、議会公聴会等での発言などが問題視され密室での尋問風公聴会を受ける 米国では戦後ソ連との対立関係により共産党が実質非合法化されているのだ 彼は妻キティと弁護士と共に闘い有罪にはならなかったが、1954年にセキュリティ・クリアランス(秘密保持許可)を剥奪された したがって、彼はその後公職には就いていない なお、1959年に上院でストローズの長官就任に反対した議員には、オッペンハイマーを高く評価していた当時のジョン・F・ケネディ上院議員(1917~1963・マサチューセッツ州選出・その後第35代大統領)も含まれる
本作は第96回アカデミー賞(2024)で作品書、監督賞、主演男優賞など7部門、また第81回ゴールデングローブ賞(2024)で最優秀作品賞(ドラマ)など5部門を受賞している
最近のコメント